11月14日、土曜日の午後。雨がサーサー降る中、百草ふれあいサロンにてワークショップ「はじめての演劇」が開催されました。 ファシリテーターは柏木陽さん(NPO法人演劇百貨店)。参加者は20代から70代の方々、20名。時間は1時間と少し短めでしたが、外の気温が13度ということを忘れてしまうくらい、熱量のある素敵なワークショップとなりました。
イントロ
開始時刻になったのを見計らい、柏木さんが自己紹介と今回の趣旨説明をするところからスタートします。
柏木さん:
「はじめての演劇」ということで演劇をやっていきたいんですけど、今回は1時間と短めなので、今日はこんな風に考えてください。どんなものでも頭と身体を使います。たとえば囲碁みたいに頭を多く使うものもあれば、野球やサッカーみたいに身体をたくさん使うものがあります。両方とも頭しか使ってない、身体しか使ってないという事はありません。演劇も頭と身体を使いますが、他のものとは若干使い方が異なるので、今日はそういうことに慣れて頂きながら、皆さんで「こんなこともやるのね」「こんなこともできるのね」ということを楽しく体験して頂ければなと思っています。
マネをする
柏木さんのイントロが終わり、まずは「マネをする」というワークから始まります。ふれあいサロンには大小様々なテーブルが4つあり、参加者は思い思いの席に座ったまま、まずは柏木さんの手の動きを真似することから始めます。
柏木さん曰く、世界には演劇のビックネームとしてシェイクスピアがいますが、日本の中では能の「世阿弥」という人物がそれにあたり、彼の言葉の中で「演劇をするならばマネをしなさい」という一節があるそうです。演劇において「マネをする」という行為がそこまで重要なことだと知らなかったので、簡単なワークでしたが非常に新鮮な気持ちで取り組めました。
柏木さんの動きをマネした後、今度は参加者同士がペアになり、互いの手の動きをマネしあうワークを行います。 皆さん椅子に座った状態で両手を上下左右自由に動かしながら、向かい合ったパートナーと笑顔で真似をし合っています。それを見た柏木さんが「ここに素敵な音楽でもかかれば、まるでダンスでも踊っているように見えてしまうのではないか」と表現していたのが、とても印象的でした。
「今日のあだ名」と「雨の日の思い出」
マネをするワークがひと段落した次は、参加者全員で1人1人順番に自己紹介を行います。話すことは「今日呼ばれたいあだ名」と「雨の日の思い出」の2つです。
20名の参加者のうち大半が60~70代の方々でしたが、その方々のあだ名が非常に印象的でした。数名参加していた大学生が無難なあだ名をつける傍、「ポンポコとしこ」「ほしがきちゃん」「ばーにゃん」「きいれなきいちゃん」「高木でいい」など、とても発想力豊かなあだ名を付けられていました。
雨の日の思い出に関しては、「子供の頃、持っていた番傘にイタズラして半分壊してしまい、その半分壊れた番傘をさして家に帰った」という幼少期の思い出から、「サラリーマンをしていた頃、初恋の相手と新橋から渋谷まで相合傘をして徒歩で帰った」という社会人時代の思い出、子育て時代の思い出、最近の思い出など、人によって様々なタイミングの思い出を語られていました。
私はこのワークが始まる時、「そういえば、まだ自己紹介すらしていなかったんだ」という少しの驚きと共に、「ワークショップは何も自己紹介を1番初めに持ってくるのが絶対じゃないのだ」という気づきがありました。そんな思いを抱くほど、この時すでに会場には無理のない「自然な居心地の良さ」が漂っていたように感じます。
短歌をつくる
自己紹介が終わり、次は「短歌づくり」を行います。参加者同士でペアを組み、2人で協力して五七五七七の短歌を完成させます。ですが全ての句を2人で一緒に考えるのではなく、お互いが交互に句を読んでいき、互いが前の句に沿った句を即興で読みあっていくというルールの元ワークが行われました。
最初は「えー」「なんか難しそう」と声をあげていたお年寄りの方々も、ワークが始まると徐々に短歌づくりに没頭していき、最後は盛り上がり過ぎて柏木さんが出した終了の合図を誰も聞いていないほど、皆さん非常に楽しまれていました。
完成した作品はとても素敵なものばかりで、その後の発表タイムも凄く盛り上がりました。柏木さんもコメントされていましたが、皆さんの短歌を聞くと「これは本当に60,70代のお年寄りが詠んだ短歌なのか?」と疑いたくなるほど、若さとエネルギーに溢れた作品が多かったのが印象的でした。
『短歌作品の一部紹介』
・紅葉の 綺麗な山に 登りたい 枯れ木でなくて 彼氏に会いたい
・もぐさには 美人美男の サロンあり 笑いの渦も 台風並みか
・紙コップ ビールが飲みたい 昼下がり 差しす差されつ たったふたりで
・旅ゆけば 時の経過を 振り返る あなたもわたしも 幸せないま
・山へ行く 天気予報は 晴れなのに 胸騒ぎして 別ればなしか
・ふれあいの 楽しいところ いつまでも 友との語らい 終わることなし
おわりに
最後に、柏木さんからこのような締めの言葉を頂きました。
柏木さん:
今日は演劇という事で皆さんにお付き合い頂きました。今日やったことのどこが演劇だろうと思うかもしれません。自己紹介では「雨の日の思い出」について語って頂きましたが、僕からすると、「どんな内容の話」かではなく、「こんな風に喋っている人」というのが見えてくる事がとっても楽しく、皆さんの発表を興味深く見させて頂きました。
喋っている姿は人それぞれ別々ですよね。だから、すごくよく喋ってくれる方もいれば、たくさん発言するわけじゃないけど一生懸命考えながら喋ってくれる方もいます。こちらの3人の方々は「思い出はないよ」「ないよ」「ないよ」と仰って下さったんですけど、同じ内容なんだけど、別々の「ないですよ」っていう3つの姿が見えてきたりしました。
なんか、その姿が僕にとってはとてもとても大事なものに見えるんです。 私にとっての演劇ってそういうものなんです。
皆さん「自分には何もないよ」と言うじゃないですか。僕の祖母も言うんです。「普通に暮らしてきたから」とか、「大したことをしてきたわけではないから」とか言うんですけど、そうじゃなくて、1人1人の方の、生活みたいなものが見えた瞬間に「ちょっと面白いな」っていうことが見えてくるのが、演劇をやっていて僕が、皆さん方と一緒にやる「楽しいところ」です。
なので、今日はすごく面白い演劇を沢山見せて頂いたり、聴かせて頂いたりした日だったなと思いました。すごく、感謝しています。ありがとうございました。
演劇と聞くと「舞台の上で役者が演じるもの。強烈な照明や、役柄に合わせた舞台衣装が必要なもの。役者としてきちんと練習を積んでいる人達だけが創れるもの」などのイメージを抱きがちですが、今回「はじめての演劇」に参加して、それらのイメージは間違ってはいないが、それだけが演劇ではない。むしろ演劇の本質はもっと素朴なところにあり、私たちの日常に寄り添ったカタチで存在しているのではないかと感じることができました。柏木さん、お集まり頂いた参加者の皆さま、どうもありがとうございました。
〔和泉ワークショップデザイン事務所:和泉裕之〕
本ワークショップは、JST-RISTEX「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域 平成27年度採択プロジェクト企画調査「多世代で共に創る学習プログラム開発の検討」(研究代表者:森 玲奈 帝京大学高等教育開発センター 講師)の一環として開催しました。