【文献紹介】④ 三好春樹・上野文規(2004)「新しい痴呆ケア:アセスメントと遊びリテーション学」雲母書房
本書は、介護の専門家として全国各地で講演や実技指導等を行っている三好氏と上野氏によって書かれたものです。三好氏と上野氏は、「遊びリテーション」を提唱した人物でもあります。遊びリテーションとは、「遊び」と「リハビリテーション」を組み合わせた造語で、遊びやゲーム等を取り入れたリハビリテーションのことです。
第Ⅰ部では、「痴呆老人のアセスメント」について、「個性」に着目して考察されています。三好氏は、「痴呆」を個体還元論で捉えること、「集団的なことをしないことが個別ケア」であるとする言説に対して問題意識を抱いています。個性は集団の中でこそあらわれるものであり、そのためには個性を知り、その人のいいところを引き出すことがアセスメントの最も大切なことであると指摘します。また、「遊びリテーション」の実践もそれぞれの個性により適応の仕方が変わるということについても触れられています。
第Ⅱ部では、「痴呆老人の遊びリテーション」について、その理論と実践例が示されます。上野氏は、「遊び」という非日常のなかでこそ、普段見えないその人の側面が見えてくると述べます。「痴呆老人」の場合には、遊びリテーションの中で意外な面を発見することにつながることもあり、そうした「人柄」が再発見できる点に遊びリテーションの意義を見出しています。そして、遊びリテーションでの発見を、生活や人間関係につなげていくことが大切であると主張します。
第Ⅲ部では、「痴呆老人が落ち着く条件づくり」と題して、上野氏が開発した家具や介護用品の紹介がなされています。トイレや浴槽等については高齢者の身体に応じた工夫がなされている他、椅子やテーブル等については、例えば、スタッフが利用者と目線を合わせられるようにするための低脚の丸椅子スツール、座ると全員が視界のなかに入ってくる六角形のテーブル等、自然に「関係性」が育まれるような様々な工夫がなされています。
以上のように、「関係性」という視点から「痴呆」という現象を捉えようとする本書は、ケアのあり方や環境のつくり方について再考するきっかけを与えてくれます。こうした考え方は「痴呆老人」のみならず、あらゆる人々とのコミュニケーションにおいても大切であるといえます。
<章構成および著者>
第Ⅰ部 痴呆老人のアセスメント(三好春樹)
第1章 痴呆老人の個性を知るためのアセスメント
第2章 問題行動の原因を知るためのアセスメント
第3章 生活の場の分類によって遊びリテーションの適応を知るためのアセスメント
第Ⅱ部 痴呆老人の遊びリテーション(上野文規)
第1章 3人のお年寄り
第2章 なぜ痴呆のある人に遊びリテーションなのか
第3章 ことばを介さないコミュニケーションとしての遊びリテーション
第4章 遊びリテーションの誤解
第5章 さあ、始めよう! 遊びリテーション
第6章 いざ! おりてこい遊びの神様
第Ⅲ部 痴呆老人が落ち着く条件づくり(上野文規)
〔文責:園部友里恵〕