ラーニングフルエイジング プロジェクト - 高齢化社会に向けた学びの可能性

リファレンス

【文献紹介】⑤「リハビリテーションの不思議:聴こえてくる、高齢者の〈こえ〉」

【文献紹介】⑤ 川口淳一(2006)「リハビリテーションの不思議:聴こえてくる、高齢者の〈こえ〉」青海社

 本書は、「介護老人保健施設ふらの」の作業療法士・川口淳一さんの実践記録です。川口さんは、施設利用者と演劇に取り組む作業療法士としても知られています。

 本書から読み取れるのは、川口さんが作業を行う際に「誰か」という存在を大切にしていることです。「誰かのために」、「誰かの役に立ちたい」と思いながらその作業を行うことで、その作業は豊かになっていくと川口さんは語ります。

 川口さんの施設での演劇実践も、そうした考え方が反映されています。川口さんは、「大勢で集まり、何かに興じてケタケタと笑いあう空間」が生活に必要であること、そうした空間を利用者さんと創ることもリハビリテーションには大切であると考え、「人と人の関係を紡ぐレク」として演劇的手法を活用した「コミュニケーション・ワークショップ」を始められました。川口さんは、「表現」を1人ではできないものであり、「受け取って、何かしら応えてくれる相手が必要」と述べており、そうした「表現に気づく場」こそがレクの場であると語っています。

 また、この演劇実践の特徴は、実践に参加する人々それぞれが「役割」を持っていることです。この役割とは、必ずしも表舞台に立つのみではありません。小道具やチケットづくり等の裏方の仕事も含め、それぞれができること・できそうなことにチャレンジしながら、1つの目標に向かっていきます。

 以上のように、本書には、利用者さんの生活の場、そこから聴こえる利用者さんの〈こえ〉に立ち返りながら作業の意味や価値を模索する様子が描かれています。人が何か行為するときの「誰か」の存在の重要性を教えてくれる1冊です。


 <目次>

1 母に伝わることば
2 平行棒
3 リハビリの「リ」の場所
4 生きている甲斐
5 お姉ちゃんのちり紙
6 折れないプライド
7 彷徨うレクリエーション
8 表現って何だろう?
9 自然と湧いてくるレクリエーション
10 笑顔のプレゼント
11 小さな返事
12 演劇と作業療法の間で
13 仕事
14 心の石ころ
15 芝居を創る
16 それぞれの演劇
17 そして本番
18 本当の食事
19 選択すること
20 母の味噌汁
21 父としてのバージンロード
22 住宅改修
23 女の洗顔
24 伝えること
25 新郎の母として
26 雪
27 喪失の隙間
28 コッカラダ
29 託されたレコード
30 また明日
31 弔い
32 池田さんのメッセージ

〔文責:園部友里恵〕