ラーニングフルエイジング プロジェクト - 高齢化社会に向けた学びの可能性

リファレンス

【文献紹介】⑨「〈老い衰えゆくこと〉の社会学〔増補改訂版〕」

【文献紹介】⑨ 天田城介(2010)「〈老い衰えゆくこと〉の社会学〔増補改訂版〕」多賀出版

 本書は、老い衰えゆく当事者と、彼/彼女らに対し日常的に介護(ケア)を提供する成員たちの関係性の変容を、〈老い衰えゆくこと〉の「意味」の問題に焦点を置きつつ明らかにしたものです。

 〈老い衰えゆくこと〉とは、「老年期における個人の身体の「ままならなさ」を第一義的に意味する現象」を指します。本書の特徴は、この〈老い衰えゆくこと〉を「単に老い衰えゆく当事者の身体に帰属・完結する個別的な現象として理解するのではなく、成員間の関係性を変容させる出来事として照射」するものとして捉えていることです。

 著者が問題視するのは、〈再帰的自己〉としての近代的個人という考え方を前提としてきた社会学の理論や方法論です。著者は、現代社会は「再帰性」(ギデンズ)が徹底化されている時代性をもっており、それは老年期の人々にも適用されると指摘します。つまり、「現代の老いを生きる人々は、老年期においても絶えず自らの身体を制御し、かつての価値や制度を吟味・改変の対象としつつ、自らが何者であるのかを自問・再任する〈再帰的自己〉であることを暗黙のうちに命令されている」のです。

 そして、こうしたことを前提にした視座からは、〈呆けゆくこと〉に代表されるような〈老い衰えゆくこと〉の問題は照射困難であるとし、個に完結しない、すなわち「再帰的ならざる人々」との〈間身体性〉における〈老い衰えゆくこと〉の「意味」を、「施設介護」「在宅家族介護」「高齢夫婦介護」という3つの〈場〉から抽出することを試みています。

 「個」を中心に構築されている従来の自己論やアイデンティティ論を超え、「関係性」という視点から人々の老いるいとなみを捉えようとする本書は、「自立」や「主体」、「ケア」の意味を改めて考える視点を与えてくれます。


<章構成>

序章 研究の目的と意義

第1章 視座とアプローチ:自己と他者

第2章 老年学の現在

第3章 施設において老い衰えゆく身体を生きるということ:「痴呆性老人」によるアイデンティティ管理と施設介護

第4章 在宅で老い衰えゆく身体を生きる家族を介護するということ:「痴呆性老人」と家族介護者の相互作用過程

第5章 老い衰えゆく高齢夫婦の〈親密性〉の変容

第6章 老い衰えゆく身体を生きる:〈老い衰えゆくこと〉の困難と可能性

終章 〈老い衰えゆくこと〉の社会学による新たなる地平

補論 老い衰えゆく身体をめぐる社会

〔文責:園部友里恵〕