ラーニングフルエイジング プロジェクト - 高齢化社会に向けた学びの可能性

リファレンス

【文献紹介】②「シニア世代の学びと社会:大学がしかける知の循環」

【文献紹介】② 牧野篤(2009)「シニア世代の学びと社会:大学がしかける知の循環」勁草書房

 本書は、社会教育学・生涯学習論を専門とする著者が、シニア世代の学びについて、大学の役割という視点から考察したものです。本書では、著者の研究室と社会的なアクターとが共同で行ってきたシニア世代を対象とした実践の紹介を通して、シニア世代の人々の価値観や生き生きと活動する姿が捉えられています。そして、こうした活動が新たな社会をつくりだすきっかけを生み出すと著者は主張しています。

 本書の特徴は、「シニア世代」と呼ばれる人々の存在や彼ら・彼女らの「学び」が、個人の変容に帰結するものとしてではなく、「社会」との関連で捉えられている点です。著者は、シニア世代の学びについて「個人が行なうものであるのに、決して個人だけのものなのではなく、社会をつくりだすことへとつながらざるを得ないものとしてある」と論じ、そうしたシニア世代の学びを「事後性」と「過剰性」という言葉で説明しています。事後性とは、学んでいるときは楽しみ、熱中しているため、学んでいる最中には自分自身の変化に気づかず、後から振り返ってみたときにはじめて気づくということを指します。また過剰性とは、そうしたことに気づきながらさらにわくわくし、さらに学ぶことにのめり込んでいくということを指します。著者は、こうした事後性と過剰性をもつ学びが、社会的な関係へと個人をひらいていくことに自然に結びつけると考察しています。そして、その際に、大学は知の社会循環をしかけるインフラストラクチャーとなると論じています。

 近年、大学では様々な市民向けの公開講座やシンポジウム等が開催されています。個人の知的欲求を満たすことに加え、そこにいかに「つながり」を生み出していくかということのヒントが、本書には描かれています。


<章構成>

はじめに シニア世代の学びと大学の役割

第1章 感謝から好奇心そして自己の尊厳へ:シニア世代の価値観と生き方

第2章 シニア世代の学びと高齢者大学:福祉と教育のはざまで

第3章 人生を全うすることへの希求:シニア世代のキャリアを考える

第4章 市民が大学で学ぶということ:知の社会循環をつくり出す

第5章 〈見えない資産〉と知の社会循環

おわりに 新しい社会のために

〔文責:園部友里恵〕