【文献紹介】① 堀薫夫(2012)「教育老年学と高齢者学習」学文社
編著者は、生涯学習論・社会教育学の領域において、アメリカの教育老年学研究を日本に紹介し、長年にわたって日本における高齢者教育・学習を研究されています。
近年、超高齢社会に突入した日本においては、高齢者をめぐる学際的な学問である老年学(ジェロントロジー)に関心が集まり、研究が進められています。しかし、これまでの老年学研究は、医学や看護学、福祉学、社会学、心理学、生理学、建築学などが中心的な研究分野であり、教育学をベースとする研究はあまり見られませんでした。
しかしながら、今日、団塊世代の高齢期参入に代表されるように、自立した生活が営める「健康な」高齢者が8割を超えているという指摘もあります。こうした現状においては、高齢者を福祉や保護の対象として捉えるのみならず、自ら学び、活動する主体として捉えていく教育学的な視点が必要であると著者は主張します。
本書の特徴として興味深いのは、老年学と教育学を結びつける研究を、「教育」ではなく「学習」の視角から構築しようと試みていることです。本書では、高齢者の生活や人生に織り込まれたものとして「学習」が捉えてられています。そして、老いから生じるきびしい高齢者の生活を、学習や活動の視点を軸にとらえ返すことで、ポジティヴな変化を喚起し、周囲の者との共同性の場をより豊かなものにしていくという視点が、「ポジティヴ・エイジング」というキーワードとともに提示されます。本書前半では、このような高齢者を捉えていく新たな視点が、編著者に加え編著者の社会学者らによって論じられている他、後半では、高齢者大学、図書館、大学開放等、今日において多様に展開される高齢者の学習の場について、国内外の実践が検討されています。
以上のように、本書は、高齢者なる存在をどのように捉えていけばいいのかということについて、教育・学習という視点を導入することの重要さに気づかせてくれる1冊であると言えます。
<章構成および著者>
はじめに(堀薫夫)
第1章 教育老年学におけるエイジングと高齢者学習の理論(堀薫夫)
第2章 現代社会と生成的エイジング:再帰性の深みへ(小倉康嗣)
第3章 「かわいいおばあちゃん」とポジティヴ・エイジング(小原一馬)
第4章 高齢者の社会参加と生涯学習(堀薫夫)
第5章 高齢者のエイジング観と学習ニーズに関する国際比較研究:カナダと日本の比較(堀薫夫)
第6章 アメリカにおける高齢者のセルフ・ヘルプ・グループの展開:孫を教育する祖父母たちの活動を事例として(間野百子)
第7章 NPOによる高齢者大学の運営:大阪府高齢者大学校を事例として(堀薫夫)
第8章 高齢者への図書館サービス論と高齢者の図書館利用論・読書論(堀薫夫)
第9章 シニア層向け大学開放の実践と課題(堀薫夫)
おわりに(堀薫夫)
〔文責:園部友里恵〕