【文献紹介】⑩ 片桐恵子(2012)「退職シニアと社会参加」東京大学出版会
本書は、退職後の生き方の1つとしての社会参加活動に着目し、その有用性を科学的な調査データに基づいて明らかにしたものです。高齢者の社会参加は、高齢社会において大切なものとされる一方で、明確な定義も、包括的なモデルもないまま研究が進められてきました。著者は、こうしたことを問題背景として質的・量的調査に取り組み、「社会参加位相モデル」を提案しています。
「社会参加位相モデル」では、社会参加活動の内容が4つのフェーズに分割されています。また、社会参加の3つの志向性、すなわち「利己的志向」「ネットワーク志向」「社会貢献志向」という観点からみると、それらはフェーズによって異なることが示されています。
フェーズ0:何もしない状態・・・・・・・・・・3つの志向性全て低い
フェーズ1:趣味などの1人でする活動・・・・・利己的志向のみ高い
フェーズ2:グループ活動・・・・・・・・・・・利己的志向とネットワーク志向が高い
フェーズ3:ボランティアなどの社会貢献活動・・3つの志向性全て高い
加えて、著者は、フェーズが高い状態であればあるほどサクセスフル・エイジングの達成度や社会的効益性も高いことを明らかにする他、社会参加活動の促進、阻害要因についても、このモデルをもとに、個人・社会関係・社会という3つの視点からそれぞれ整理しています。
退職後の人生をいかに過ごしていくかは現代日本を生きる人々の大きな課題の1つとなっています。これまで断片的に研究されてきていた社会参加活動を包括的に整理し、有用性を実証している本書は、多様な社会参加活動を捉える1つの軸を提示してくれるのみならず、社会参加したいにもかかわらずできない人々に対する支援のヒントを与えてくれます。
<目次>
第Ⅰ部 退職シニアと社会参加
第1章 退職シニアを取り巻く様々な問題
第2章 社会参加活動についての理論:3つの必要性
第Ⅱ部 サクセスフル・エイジングと社会参加:理論と研究
第3章 質量混合研究法による調査
第4章 「社会参加位相モデル」の構築
第5章 調査データによる「社会参加位相モデル」の検討
第6章 社会参加は進んだのか:2008年調査によるモデルの拡張
第7章 社会参加の効用:総合考察
〔文責:園部友里恵〕