【文献紹介】⑫ やまだようこ編(2008)「人生と病いの語り」(質的心理学講座2)東京大学出版会
本書は、ライフ(人生・いのち)と病いの語りをテーマとした9つの論考から成っています。「多様な見方」「意味転換」「変化プロセス」を重視するナラティヴ・アプローチを用いて、「今まで日陰におかれネガティヴに見られてきた「死」「喪失」「障害」「危機」「病い」などを、人が生きる上で不可欠なものとみなし、それらを抱えながら長い人生を生きるプロセスに光をあてようと」するものです。
各章を読み進めると、当事者として深くかかわった現場で得られた語りと格闘しながら、言葉を紡いでいく研究者の姿が浮かび上がってきます。本書は、人生と病いというテーマに深く向き合い、その現場を描き出すにとどまらず、「研究とは何か」という大きな問いを考えるきっかけを与えてくれます。
<目次>
序章 人生の病いと語り(やまだようこ)
Ⅰ 失うことと生きること
1 喪失を生きるナラティヴ:「千の風になって」(やまだようこ)
2 失語症の〈語り〉を聴くこと:“病い”の構築という視点から(能智正博)
3 自死遺族の語り:今、返事を書くということ(川野健治)
Ⅱ ライフサイクルと臨床の知
4 小児がんの子どもの闘病体験:研究という名の長距離走(戈木クレイグヒル滋子)
5 ナラティヴ・ベイスト・メディスンと臨床知:青年期慢性疼痛事例における語りの変容過程(斎藤清二)
6 人生半ばのアイデンティティ危機の理解:中年期危機に対する発達臨床的アプローチ(岡本祐子)
Ⅲ 病いの語りと治療の道のり
7 物語としてのカウンセリング(森岡正芳)
8 認知行動療法と語り(下山晴彦)
9 病いの語りと人生の変容・再考:病いと物語(ナラティヴ)の諸相(江口重幸)
〔文責:園部友里恵〕