【文献紹介】⑯ 大和礼子(2008)「生涯ケアラーの誕生」学文社
「高齢者の介護は、家庭において家族がするのが当たり前」という意識は時代とともに変容し、「専門家による介護を利用したい」と考える人(特に女性)が徐々に増えていきました。著者は、この現象に対する「通常の解釈」では女性を「介護する立場」としてしか見なしてこなかった点を指摘した上で、実は「介護される立場」としての女性の意識こそがこの現象の裏にあることを示しました。そして、介護される立場として「専門家による介護を利用したい」と考えるのは、女性たちが、高齢期になってケアされることが必要になっても、家族に対してはあくまでケアする存在でいたいという意識、つまり「生涯ケアラー」としてのアイデンティティを持っているためだと分析しています。
本書は、性別や家族という視点から介護やケア、社会のあり方を見直す上で重要な示唆を与えてくれます。
<目次>
第1章 なぜ介護を専門家に頼るのか
第2章 ケア、世代間系、公共/家内領域、自立/依存をどうとらえるか
第3章 介護する意識とされる意識
第4章 女性とケア・アイデンティティ
第5章 生涯家計支持者と生涯ケアラーの誕生
第6章 社会階層と介護意識:「女性中流階級のための福祉国家」
第7章 公共領域/家内領域の再構築とその中断
第8章 「ケアしあう人々」という社会
〔文責:園部友里恵〕