【文献紹介】③ 荒井浩道(2014)「ナラティヴ・ソーシャルワーク:“〈支援〉しない支援”の方法」新泉社
本書は、自らも社会福祉士として実践に携わりながら研究を行っている著者が、ソーシャルワーク領域におけるナラティヴ・アプローチ、すなわち「ナラティヴ・ソーシャルワーク」の可能性を論じたものです。
ナラティヴとは、「物語」「語り」「声」等と訳される、複数の意味が込められた用語です。ある人の「物語」「語り」「声」、さらには「声なき声」にも耳を傾け、その人の経験を深く理解していこうとするのがナラティヴ・アプローチです。
著者は、ナラティヴ・アプローチのソーシャルワークに対する貢献として次の2点を挙げています。第1に、「物語への言語的介入」という技法をもたらしたこと、第2に、「支援関係の問い直し」という視点を導入したことです。
ナラティヴ・アプローチは、これまでソーシャルワークの実践に援用されることはほとんどありませんでした。著者は、その理由を、ナラティヴ・アプローチが、ソーシャルワークにおいて一般的な考え方とは大きく異なる立場をとるためであると述べています。それは、「専門性」ということに関わっています。
ソーシャルワーカーの専門性とは、困難を抱えている当事者と向き合い、その困難に潜む「原因」を、直接的な介入によって解決することを一般に指します。しかし、ナラティヴ・アプローチでは、ソーシャルワーカーは、言語を用いて間接的に当事者の抱える問題に介入します。すなわち、「原因」を特定せず、また「原因」を知っていたとしても無関心であろうとする「無知の姿勢(not-knowing)」と呼ばれる態度で臨みます。このように、専門職による「支援」における権力の介在に着目するのが、ナラティヴ・アプローチの特徴と言えます。
このように本書は、高齢者の生活とも深く関わるソーシャルワーカーの「専門性」を問い直すとともに、ナラティヴ・アプローチ自体を拡張する視点を備えています。本書から得られる視点は、高齢者という存在自体の捉え方についても新たな視座を提供してくれるでしょう。
<章構成>
はじめに
Ⅰ ナラティヴ・アプローチとは何か?
Ⅱ 困難事例を支援する
Ⅲ 多問題家族を支援する
Ⅳ グループで支え合う
Ⅴ コミュニティの物語をつむぐ
Ⅵ ナラティヴ・データを分析する
結びにかえて
〔文責:園部友里恵〕