【文献紹介】⑧ 宮崎和加子(2011)「認知症の人の歴史を学びませんか」(田邊順一 写真・文)中央法規出版
本書は、訪問看護の看護師である著者が、約40年間にわたる認知症の人々の歴史を、当時の写真をもとに振り返り、記述したものです。
歴史とひとことでいっても、歴史をすべてまとめることは不可能です。そこで、著者は、①認知症の人の生きる姿の歴史、②認知症の人がどう感じたか、どう受け止めたかの歴史、③変革の歴史、という3つの視点から、認知症の人をめぐる歴史を、インタビュー、文献検索、著者が見聞き、体験したことをもとに描いています。
本書で描かれる歴史の始まりは、日本で社会的な問題・課題として認知症が認識され始めた1970年代です。そして、著者は、1970年代から現在までの歴史を、「「認知症」という状態を、「何もわからなくなってしまった状態」「人格が変わってしまった人」ととらえるのではなく、「普通の人と同じ人権をもった人」「特殊ではなく、認知症でないときと同じように個性豊かに生きられる人」ととらえ、それを可能にするための取組みの歴史」と捉えています。
本書の末尾には、田邊順一氏による「写真が物語る認知症の人の歴史」が掲載されています。施設の設備や利用のされ方、周囲の人々との距離感、認知症の人々の顔の表情、昔と今では全く異なることが写真からわかります。ページをめくるたび、写真の中の認知症の人々の笑顔が増えていくことがとても印象的です。
認知症の人の生きる姿をより主体的で豊かなものにするために、当事者、家族、施設等の職員、行政等、様々な立場の人々の変革の努力が力強く伝わってくる1冊です。
<目次>
はじめに
歴史を学ぶ前に
その1 認知症の人の居場所の変遷
その2 40年前のこと
その3 精神病院という場で
その4 身体拘束禁止にたどりつくまで
その5 動き出した特養ホーム
その6 老人保健施設とE型デイサービス
その7 宅老所・グループホームの試み始まる
その8 「怠け老人をかかえる家族の会」発足と市民活動
その9 介護福祉士の登場
その10 2つの視点から40年を振り返る
その11 未来に向けて――私の歴史とともに
〔対談〕 認知症にまつわる制度はどうつくられてきたか
写真が物語る認知症の人の歴史(田邊順一 写真・文)
おわりに
〔文責:園部友里恵〕